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漫画家吾妻ひでおさんのコミックエッセイ「失踪日記」です。

もうだいぶ前に出版されてたいへん話題になり、
  第34回日本漫画家協会賞〈大賞〉
  第9回文化庁メディア芸術祭マンガ部門〈大賞〉
  第10回手塚治虫文化賞〈マンガ大賞〉
など、たくさんの賞を受賞した傑作なのだ。

むしょうに読みたくなり、あらためて読んでみた。
不安定な心が欲する作品なのである。

「全部実話です(笑)」と書かれているように、吾妻さん自身の実体験を赤裸々に語ったノンフィクションである。

一度目の失踪を描いた「夜を歩く」、二度目の失踪を描いた「街を歩く」、アルコール依存と治療の時期を描いた「アル中病棟」の3つの章で構成されている。

一度目の失踪は、仕事に追われ、「たばこ買って来る」と言って出て行ってそのまま失踪する。山で首つり自殺をしようとしてそのまま寝てしまったり、凍死寸前になったりしながら、山と街とを行き来しながらのホームレス生活をコミカルに綴っているが、内容はきわめてハードで切実なものがある。

二度目の失踪は、原稿を落としてフラッと逃げてしまい、竹藪とか街の中でホームレス生活に入る。二度目は、かなりホームレス慣れしていて、街の中の面白いヘンな人たちをウォッチングしながら、それなりに工夫して生きていく。その後なぜか配管工として働きはじめ、社内の不思議な人間関係に振り回されながらも社内報の漫画に応募したりもしている。

アルコール依存症の時は、その感情の動きとか、しらふの時の不安感とかが淡々と表現されてはいるが、それでも十分に鬼気迫るものが感じられる。
何度も幻覚をみて気がおかしくなりそうなり、あちこちで倒れたり寝たりそしてオヤジ狩りにあったりしているうちに、家族に強制入院させられるのだ。
病院に入院している依存症の面々もヘンな人ばかり出てくるのだが、入院生活の前半で本書は終わっている。

インタビューを読むと、「ギャグマンガの作家は、常に新しいギャグを考えようとすると、だんだん精神が病んでくる」のだという。そして、気がつくと原稿を落としたり、うつと不安と妄想に襲われたりして精神的にも非常にキツイ状態になっていったようである。

ギャグ満載でテンポの良いリズムに楽しく読んでしまうが、内容を冷静に見てみると実に壮絶である。冒頭に「この漫画は人生をポジティブに見つめ、なるべくリアリズムを排除して描いています。リアルだと描くの辛いし暗くなるからね」とあるのだが、それでも相当に厳しい状況を越えてきたのだと言うことは推測できる。よく、復帰できたものだと感心する。

すべてをご破算にして、消え去ってしまいたいと思う気持ちはとってもとっても理解できる。自分もそう思うことはよくあるが、なかなか現実から逃げ出せないでいる。そして鬱々と暮らしている。
そういう衝動に駆られて失踪した人間の実録であるということと、それをコミックエッセイという形式で、表現することを生業とする吾妻さんが作品にして公表し、それが大きな反響と評価を得て、たくさんの人に読まれてきたことに、この本のおおいなる価値がある。

この作品の凄いところは、実話でありながら、作品として実に面白いコトであろう。
悲惨な現実(体験)を軽々と越えて、作品として見事に昇華し、楽しめる読み物として構成してしまう吾妻さんの筆力はさすがである。

表現はいたって淡泊でほのぼのとさえしており、吾妻さん自身が出ずっぱりで飄々と悲惨な状況を通り抜けていく姿の背景に、社会の暮らしにくさとか、弱い人間にとっての生きにくさの本質みたいなものが透けて見えているようで、なぜか共感というか安堵感というか、救われるものを感じてしまう。
私はその心地よさに何度も何度も読み返してしまった。

全体にそうなのだが、特にアルコール依存については、漫画の特性を生かしてその怖さが実に鮮明でわかりやすく表現されていて、依存者の心理を理解するうえで貴重なのではないだろうか。

社会において不安を感じながら、ストレスに耐えながら生きている多くの人たちにとって、悲惨な体験を通り抜けてきた当人が、その気持ちを読みやすく表現してくれることは貴重であり、本作品はそういう意味で読み継がれていって欲しい傑作なのである。

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2012.05.19 | その他 | トラックバック:(1) | コメント:(4) |

 サイト拝見させていただきました。
とても良い感じのブログですね。
色々と興味の出る本が多くて助かります。
読書の参考にさせていただきます。

2012.05.20 23:07 URL | 柊秀一 #KY9ZLyNg [ 編集 ]

はじめまして。
「甘い蜜の部屋」の悠里と申します。

実はこの「失踪日記」かつて
興味があったのですが未読のままだったことを
思い出しました。
こちらで記事を拝見し、こんなに面白かったんだ!
とあらためて感じ、ぜひ読んでみたいと思いました。
とくに「実話でありながら、作品として実に面白いコトであろう。」と
紹介されてるところにとても惹かれました。

2012.05.20 23:38 URL | 悠里 #- [ 編集 ]

柊秀一さん。
コメントありがとうございます!
つたないブログですが、見ていただけると嬉しいです。
どうぞよろしく。

2012.05.21 00:48 URL | patch #usRKZg9Q [ 編集 ]

悠里さん。
コメントありがとうございます。
ブログ拝見してます。

失踪日記は、漫画ならではの、淡々としたリズムがあって、壮絶な内容なのに、楽しめて読めてしまいます。
こうした体験をこんな風に表現できてしまうことはとっても意味があるように思いますね。

2012.05.21 00:55 URL | patch #- [ 編集 ]












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2012.05.20 04:37 | まとめwoネタ速neo

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