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吉田篤弘さんの「78(ナナハチ)」です。
「その昔、もうずっと昔のこと、世界は78回転で回っていた。」ではじまる不思議な雰囲気のお話。

《文庫裏表紙より》
その昔、世界は78回転で回っていた ― 。
「78(ナナハチ)」という名の一風変わったSP盤専門店を主たる舞台に、置き手紙を残して失踪した店主、店の常連客の若者 ― ハイザラ・バンジャック、二人が思いを寄せる女性・カナたちのお話が進んでいくにつれ、大昔の伝説の楽団「ローリング・シェイキング&ジングル」、〈失意〉を抱える作家、中庭と犬をこよなく愛する老人、未完の曲を残したまま消息を断ったチェリスト、その父を探す息子、「夜の塔」という名の七重の塔に棲む七人の姉妹の様々な時間・場所の物語が響き合う。


小学生からの親友同士であるハイザラとバンシャクの冒険物語にはじまり、そこで拾った一枚のSP盤と二人が再会するSP盤専門店を拠り所に、毎回語り手を変えながら13の物語が語られて、それぞれが微妙にいろいろな形でリンクして共鳴するような構成になっている。

短編が少しずつ重なり合って一つの物語を作る手法はよくあるのだけれど、この作品は、共鳴の仕方が実に多彩であり、直接登場人物がリンクするものもあれば、SP盤を通じてリンクするもの、音楽を通じてリンクするもの、なんとはなく同じような人間関係でリンクするもの、ちょっとした小物でリンクするもの、‥‥‥実に自由に奔放に、時間も場所も思い切り飛ぶし、かなりいい加減に関係性を持たせているところが特徴であり、それでもなぜか全体にレトロモダンな音を奏でる物語たちが不思議な連鎖を見せて化学反応を起こし、一つの大きな作品をつくりあげているところが素晴らしいのだろう

しいて言えば、ある程度テーマを持ったいろいろな曲で構成された一枚のレコード(アルバム)のような作品でもある。

文章は、吉田篤弘さんならではの丁寧で優しい言葉の積み重ねと心地よいゆったりとしたリズムを刻んでいて、安らかな時間を与えてくれる。
今回は特にSP盤のレコードという媒体イメージとも合わさりながら、背景にスタンダードな音楽が流れるような、それも独特の回転数を感じさせている。

前半は、少し昔の現実のお話が中心で、わかりやすくて懐かしい感じが馴染みやすく、登場する場所や小物の味わい深い感覚とともに、おもしろく読むことができる。
後半になると、寓話的な、どの時代のどこ国なのかわからないようなエピソードが多くなってきて、それはそれでおもしろいのだけれど、前半のお話とのギャップに少し馴染みきれず、多少の違和感を感じながら読んだ。

どちらにしても吉田篤弘さんの作品は、あとにじんわりと残る感じがする。
作品では、そのテーマでもある消えてしまったもの、消えてしまいそうなものの痕跡が表現されているのだが、同じような感覚が、このお話を読んだ自分の頭の中でも起こっているのだ。
読み終えた後に、ストーリーはあいまいでそのうち忘れてしまいそうなのだが、心地よい感触は胸の中にずっと残っていきそうな気がする。

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2012.04.30 | 吉田篤弘 | トラックバック:(0) | コメント:(4) |

吉田篤弘さんの「それからはスープのことばかり考えて暮らした」です。
「つむじ風食堂の夜」に続く月舟町三部作の二番目の物語。


《文庫カバー裏面より》
路面電車が走る町に越して来た青年が出会う人々。商店街のはずれのサンドイッチ店「トロワ」の店主と息子。アパートの屋根裏に住むマダム。隣町の映画館「月舟シネマ」のポップコーン売り。銀幕の女優に恋をした青年は時をこえてひとりの女性とめぐり会う―。いくつもの人生がとけあった「名前のないスープ」をめぐる、ささやかであたたかい物語。


文体は優しくてまったりとした質感が心地よく、ささやかでこぢんまりとしながらも上質な物語を綴っている。

これといって大きな出来事は何も起こらないのだけれど、嫌味な人が一人も出てこない安心感にすっぽりと浸りながら、ゆっくりと流れる時間を心おきなく堪能できる。

ああ、月舟町の住人になりたい。

だんだんとこの町が頭の中に描かれてくる。でもそれはかなり勝手な私的妄想の入った町であって、吉田篤弘さんの描いた町とは異なっているのかもしれないが、だからこそ余計に馴染みのよい町の姿が自分の中に構築されていく。

この小説の心地よさは、自分の中の記憶の底のところをくすぐるような、忘れかけていた思い出とか、懐かしさを呼び起こすような‥‥‥大学の時に過ごした路面電車が走る町とか、子どもの時に遊んでいた路地裏やお寺の境内とか、材木店だったわがやの丸太置き場だとか、王冠を拾いに行った近所の酒屋の裏庭だとか、中学生の時通い詰めていた古い映画館だとか‥‥‥、そういったいろいろなあたたかな良い記憶の連想を引き起こしてくれる力にあるのかもしれない。

心穏やかでないとき、なんとなく不安感に苛まれているとき、塞いだ気持ちをあたためながらほぐしてくれる良薬でもあり、温かなスープのようでもある。

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2012.04.13 | 吉田篤弘 | トラックバック:(0) | コメント:(1) |

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