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中村文則さんの「何もかも憂鬱な夜に」です。
解説をピースの又吉さんが書いている。

《文庫裏表紙より》
施設で育った刑務官の「僕」は、夫婦を刺殺した二十歳の未決囚・山井を担当している。一週間後に迫る控訴期限が切れれば死刑が確定するが、山井はまだ語らない何かを隠している―。どこか自分に似た山井と接する中で、「僕」が抱える、自殺した友人の記憶、大切な恩師とのやりとり、自分の中の混沌が描き出される。芥川賞作家が重大犯罪と死刑制度、生と死、そして希望と真摯に向き合った長編小説。


暗くて湿った感じがする。
生と死、重大犯罪や死刑制度といったとても重いテーマに真正面から向き合っている。

こういう内容は、落ち込みそうだし、表紙もなんかじめじめした感じがするし、どうにも読み進める自信が無い。ずっと以前は、重いテーマの純文学らしい作品を好んで読んだ時期もあったのだけれど、最近は耐性が無くなったのか正直に言うと読む気がしない。
でも、なぜか中村文則さんの作品は、つい手の取り、いつの間にか読み切ってしまう。そういう意味で、私にとって現代では希有な作家だ。

読み始めるとやはり重くてどうしようもなく低空飛行なのだが、そのままズーンとハイスピードでまっすぐに暗闇の中を突き進み、後半は徐々にスピードを上げながらほんの少し浮上して読み終える。そんな感じである。

登場人物の関係性だとか、物語を深めていく構成の妙だとか、テーマへの向き合い方だとか、死刑制度への問題提起だとか、いろいろ評すべきところ、感じることはあるのだけれど、何よりも強く惹かれたのは、感情を言葉で表現仕切ってしまう筆力だ
それはもうまっすぐにまっすぐにひたすらまっすぐに表現する、言葉の力を信じて書ききってしまう圧倒的な密度というか、比重を有している。

自分の中に渦巻く混沌、わき起こってくる得体の知れないもの、押さえようのない衝動、混乱し自分の意志のコントロールが効かなくなる瞬間、苦しくて叫びたくなるような不安感、そうした主人公の感情の動きや意識というのか無意識というのかそんな心の動きを、脳の疼きを、随所で言葉で表す試みに挑戦しているように思えてくる。
それは、見事に成功しているように私には伝わってきた。

こういう感じは体験したことがあるようなそういう気持ちが襲ってくる。
ある種の共感がわき起こる。それは、少し快感でもある。
この感じは、自分の暗部を、弱い部分を、撫でられているようで少し気分が落ち着くのだ。

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2012.06.02 | 中村文則 | トラックバック:(1) | コメント:(2) |

中村文則さんの「掏摸」です。
第4回大江健三郎賞の受賞作。

《amazon内容紹介より》
東京を仕事場にする天才スリ師。
ある日、彼は「最悪」の男と再会する。男の名は木崎かつて一度だけ、仕事をともにした闇社会に生きる男。
「これから三つの仕事をこなせ。失敗すれば、お前が死ぬ。逃げれば、あの子供が死ぬ……」
運命とはなにか。他人の人生を支配するとはどういうことなのか。そして、社会から外れた人々の想い、その切なる祈りとは。
芥川賞作家がジャンルの壁を越えて描き切った、著者最高傑作にして称賛の声続出の話題作! 


物語は常に、理不尽な悪に包囲されている。
絶対悪としての押しつけがましい論理、世の中にはびこる不条理なものが、掏摸という犯罪者でもある主人公に絡みついてきて離さない。

中村さんは、圧倒的な「悪意」を描く。そして、「悪意」に絡め取られていいる人間を息苦しいまでに執拗に描ききる。

主人公を取り巻くいくつかのエピソードや登場人物(究極の悪である木崎は当然ながら、過去の友人や恋人、売春婦とその子ども)が実に巧みに配置されていて、彼の感情や意識の揺れを見事に描き出していく。実に良く練られていると思う。

ただ、木崎のことが、巨大な悪としてかなり大袈裟に書かれているのに、あまり厚みを感じないのは少しどうかと思う点だ。わざとよくわからないものとして描いているのかもしれないが、抗いようのない圧力みたいなものがいまひとつ滲み出てこない気がした。

全体を流れる倦怠感のようなものが中村さんならではの空気というか温度というか湿度を保っていてまとわりついてくる。でもそれは暗くてじめりとしていながらも洗練されていて、優雅というかとても映像的である。それはスリリングな展開とともに読者を軽快に読み進めさせる推進力を備えている。

私は、絶望しているようでいて懸命に生きようともする主人公に、なぜかドキドキするのだ。

傑作だと思う。

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2012.04.05 | 中村文則 | トラックバック:(0) | コメント:(0) |

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